■■■ はな  絵本の話「消えてしまった絵本」 ■■■

とても楽しい絵本で、こどもたちによく読み聞かせていた本が、ある日突然
消えてしまった。本屋から姿を消してしまった。
男の子がジャングルにさんぽに出かけ、途中でつぎつぎにトラに会い、
服や持ち物をとられてしまう。
トラたちは自分がいちばんえらいトラだと主張しあい、やしの木のまわりをぐるぐる
まわるうち、とかしバターになってしまう・・・・・

こどもたちは、この話が大好きで、トラになって部屋中をぐるぐる走り回って遊んだり、
最後のページでは、パンケーキをパクパク食べる真似をして「ああ、おなかいっぱい」
と言っていたのは、楽しい思い出である。
それは、ちびくろサンボという本。
わたしは、この時は、この絵本が消えてしまった経緯を知らなかった。

最近、偶然この本を、インターネットでみつけた。
ちびくろサンボは19世紀にイギリスのGrand Richardsという出版社から刊行されたもの
著者は、ヘレン・バナーマンである。
その原書が、径書房から、ちびくろサンボ生誕100年を記念して、完全復刻された。
本文は英語、絵もサイズもオリジナルの復刻である。

わたしは、この本が消えてしまった理由をみつけたくて、原書を読んでみようと思い
購入して、早速声に出して読んでみた。
それは英語版ではあるものの、以前と変わらぬ楽しさが伝わってきた。
そして、バナーマンというお母さんが、娘のために絵も文も書いたものだということ
を知った。お母さんが、娘のために書いた本ということで、納得する。

そこには、愛情あふれたやさしいお父さん、お母さんに囲まれた暖かな家庭が
描かれている。たぶん、バナーマンは、娘に、お父さん、お母さんの愛情を
伝えたかったのだと思う。あまり、うまくない絵だけれど、そこかしこに
娘への愛情が感じられる。そして、どっさりのパンケーキ。
ここにも、親の愛情が感じられる。サンボが家族の中で、いちばんたくさん
食べるのだから。
多くのこどもたちは、サンボをうらやましいと思うことだろう。
やはり、この本が消えた理由は、わたしにはみつけられなかった。

その後で、いろいろ調べるうちに、不幸にも、絵本が、作者の意図とは違う方向に
向かってしまうことがあるということを知った。
絵本を読むことによって、生まれてしまう差別があるとしたら、
その子ども達の不幸に心が痛む。

それは子ども達にも、絵本にとっても、不幸な出来事だ。
わたしは、もういちどこの本を手にとって、絵本を与える側、読み聞かせる側に
とって何が大切なのか考えた。
答えは未だに出ないのだけれど、ただひとつ言えることは、絵本はこども自身が
選ぶもの。こどもによって支持されていくものではないか。
そのことについて、わたしは、これからも学びつづけたいと思った。
そして、この本当のちびくろサンボを、これからも読みつづけていきたい
と思った。


径書房出版の本

4770501722The Story of Little Black Sambo
ヘレン・バンナーマン 灘本 昌久 Helen Bannerman
径書房 1999-10

by G-Tools
4770501730ちびくろさんぼのおはなし
ヘレン・バンナーマン なだもと まさひさ Helen Bannerman
径書房 1999-06

by G-Tools
4770501714ちびくろサンボよすこやかによみがえれ
灘本 昌久
径書房 1999-06

by G-Tools
4770500874ちびくろサンボ絶版を考える
径書房編集部
径書房 1990-08

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